普段映像作家、映画監督として活躍しながら、
プロボノとしてワールドシアタープロジェクトで大活躍している内田英恵

2017年12月、カンボジアに渡航し、
ワールドシアタープロジェクト初の製作作品『映画の妖精 フィルとムー』が
届く様子を見届けてきました。

内田英恵から、子どもたちの様子のレポートが届きました。

今回フィルとムーをカンボジアのスタッフに届け、上映に立ち会ったのは全部で5校。
全て農村部にある学校で、WTPが訪れるまで、子ども達は映画を観たことがありませんでした。
5校のうちの3校は、2度目の訪問でした。

テレビのある家庭は限られ、電気のない暮らし(あっても電球ひとつを灯す程度)が農村部ではめずらしくありません。

いったいどんなものが始まるのか、想像もつかない子ども達のドキドキが、即席スクリーンが設置された教室に充満していました。

大きなスピーカーから音が流れ、スクリーンに映像が映し出されると、子ども達は一層、微動だにせず、一瞬たりとも目が離せない様子で、食い入るようにスクリーンを見つめていました。
声を出すことも、笑うことも、まばたきさえも忘れてしまったようでした。
息を詰めたままに、あっという間にエンドロールが流れ始めた、という様子でした。

1度映画の楽しさを味わっていた子ども達には、ストーリーを楽しむ余裕があるように感じました。
初めて映画を観る子ども達が、食い入るようにじっとスクリーンを見つめているのに対し、
2回目の子たちは、映画の中で起こる出来事に反応し、想像を膨らませながら観ていたようでした。
麻布から、初めて顔を出したフィルを見て、笑顔がこぼれました。映画は2度目でも、初めてのクレイアニメ体験です。

ムーがスクリーンに飛び込んだときには、何が起こるのだろうと目をまん丸にして観ていました。

車窓がサメに飲み込まれそうになったときには思わず悲鳴が上がりました。

フィルとムーがゴリラに捕まってしまったときには息を飲み、
フィルが映し出す美女にゴリラが気をとられると、笑いがおきていました。

廃墟に戻り、フィルがムーを土に埋めた時、「これは種なんだ!」と子供たちが言っていたと、現地スタッフが教えてくれました。
エンドロール明けに土から芽が出たときには、笑顔がこぼれました。

ここで映画を観た子ども達には、往年の名作を彷彿とさせる様々なシーンを知る由もありません。映画配達人である大人でさえ、ピンと来ません。
実はそんな現地スタッフからは、このフィルとムーをもっと長くして、台詞があって具体的で、子ども達がもっと、自分と主人公とを照らし合わせられる作品だといいな、なんて言葉もありました。

そのとき、この作品はものすごく想像力を必要とする作品なんだと改めて気づきました。
でも想像力を育てるのも、映画の持つ力だと思うのです。
そこに立ち会いながら思ったのは、フィルとムーに出会った子ども達には、できればこの作品を何度も観て欲しい、出てきたシーンを何度も思い返して欲しい。そしていろんなことを想像したり考えたりしてもらいたい。更には、彼らがこれからもっとたくさんのいろいろな映画と出会っていけたらいいなということでした。

「映画は世界への窓だと誰かが言った。映画を知らない子ども達がいるならば、そこに窓をつくりにいこう」という言葉が今団体のHPに載せてあります。
『映画の妖精 フィルとムー』は、多くの場合、映画を初めてみる子ども達が観る作品になるはずです。
ですのでなおさら、この作品が子ども達にとって陽の差す窓、そして開けたくなる窓でありたいと思います。
映画が好きになって、いつか自分自身で、見覚えのあるワンシーンにたどり着く子もいるかもしれません。そのワンシーンが、新たにどこかへ導いてくれる窓になるかもしれません。

こうして出来上がった素晴らしい作品『映画の妖精 フィルとムー』を子ども達の目の前までだけでなく、心まで届けていけるように、私たちも新たなスタートを切ったことを実感しました。

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